てぶくろ
跡部の家から帰る途中、宍戸は空を見上げた。
「うー寒いな…」
「雪でも降りそうなくらい冷え込んでますね」
空は雲ひとつなく星が瞬いている。
明日はさらに寒くなりそうだなと鳳は思った。
今日のクリスマスパーティーは本当に楽しかった。
二年生である鳳と日吉は初めてだったので、跡部宅のパーティーの豪華さにはただ驚くばかりだった。(樺地は正レギュラーだったので去年既にに招待されていた)
食事もさることながら、一番目を引いたのは豪勢なクリスマスツリーだ。
鳳の家にもツリーはあるけれどそれとは全く違うように思えた。
「今日は楽しかったですね」
「ああ。だけどプレゼント交換って全然意味がなかったよな」
宍戸はマフラーを口元まで上げながら言った。
「宍戸さん災難でしたよね」
鳳は苦笑しながらプレゼント交換をを思い出した。
各自一つずつプレゼントを持ってきて適当に交換するというものだったが、何だかんだで跡部は樺地と、岳人は忍足と交換した。
最初に跡部は宍戸のプレゼントが渡っていたが、樺地のプレゼントを持っていた岳人と取り替えられ、更に岳人は忍足のプレゼントを持っていた樺地と取り替えた。
そういう理由から宍戸のプレゼントはたらい回しにされてしまったのだ。
(宍戸さんのプレゼント欲しかったなぁ)
結局宍戸のプレゼントを手にしたのはジローだった。
あの時、すぐに欲しいと言えばもらえたのかもしれないのにと今更ながら後悔していた。
ちなみに鳳のプレゼントは日吉の手に渡った。
プレゼントの中身はクロスのペンダント…正直なところ宍戸に受け取ってもらいたかったりする。
日吉もそのプレゼントを見て、「宍戸さんじゃなくって悪かったな」と笑っていた。
当の日吉のプレゼントは帽子だった。
きっと自分と同じように宍戸用だったのだろう。鳳はそう考えてみると複雑だが、何とも笑える話だった。
「マジでアイツら失礼なヤツだぜ!俺のプレゼントは受け取れねぇってか」
少なくとも後輩二人は宍戸さんのプレゼントを欲しいと思ってましたよ?と心の中で言いながら、鳳は肩をすくめて笑った。
よほど寒いのかしきりに宍戸は手を擦り合わせていた。
「宍戸さん、手袋持ってこなかったんですか?」
よくよく見てみるといつも手にしている手袋をしていない。
「今日に限って忘れてきちまったんだよ。激ダサだな」
はあっと息をはくと白くみえた。少し赤い顔をした宍戸はコートに手を突っ込んだ。
「俺さ、冬場って手先がめちゃめちゃ冷えるんだよ。手袋あってもなくてもたいして変わんねーけど気分的にはあった方が良いよな」
「ちょっと手さわっても良いですか?」
鳳に言わると宍戸は面倒くさそうに手を出した。鳳は手袋をしたまま手を握ってみた。
「うーあったけー」
宍戸は幸せそうな声を出した。
鳳はドキッとしながらも宍戸の手を覆う。
手袋をしているので手の冷たさが分からない。片方を外すと宍戸の手に直接触ってみた。
宍戸の手は冷たかった。触れている部分から熱が吸い取られていくようだ。
「かなり冷えてますね」
「な、言っただろ?それにしてもお前は体温高いな。すげーあったかい」
「じゃあ片方手袋貸しますよ。もう片方は俺が手を繋いでますから」
そう言って鳳は宍戸に外した手袋を渡した。
「良いのかよ?それじゃあ長太郎が寒いだろ」
「俺は全然平気っすよ!」
実際のところ片方貸したなら、もう片方の手はポケットに入れておけば済むはずだ。
だが、鳳はあえてその事は言わなかった。
身を切るように冷え込んだ空気の中、ひんやりとした手を握っていて寒いはずなのに、鳳は寒さよりも幸福感で一杯だった。
静かな住宅街を歩いて行く。ところどころの家はイルミネーションで飾られていて、とても綺麗だった。
「俺、あの青い色好きっす」
鳳は青い光を指差しながら言った。
「そうだな…冬に見るにはちょっと寒い色だけどキレイだよな」
そんな他愛ない話をしながら歩いた。
宍戸の手も温まってきたのか、それほど冷たく感じない。
何とはなしに鳳は軽く手を握り締めてみた。宍戸は言葉を返さず、そのまま手を握り返した。
しばらく歩くと、十字路に差し掛かり、二人は足を止めた。
ここが鳳と宍戸の分かれ道なのだ。
宍戸は鳳の手を離すと手袋を外して差し出した。
「じゃあまたな。これありがとな」
鳳は受け取ろうと手を伸ばすと、宍戸の手ごと包み込んだ。
「?」
宍戸はどうしたのかと鳳の顔を見た。
「そのっ、手袋…宍戸さんにあげます!」
鳳は自分が着けていた手袋を外すと宍戸の手に持たせた。
「つーかそれ長太郎のだろ?」
「俺、宍戸さんに何もプレゼントしてないから…せめて迷惑じゃなかったら…新品じゃないけど」
とっさに口にしたため上手く言葉に出来なかった。我ながら意味不明で恥ずかしいと鳳は少し落ち込んだ。
「じゃあ、クリスマスプレゼントありがたくもらうぜ」
宍戸は微笑すると両手に手袋をした。
「宍戸さん…メリークリスマス」
鳳は宍戸を引き寄せると額にキスを落とした。
「…恥ずかしいヤツだな」
宍戸の抗議に鳳は顔をほころばせながら「すいません」と言った。
「じゃあ宍戸さん。また今度」
「ああ、次は大晦日あたりにな」
二人はそれぞれ背を向けて歩き始めた。
「長太郎!」
鳳は振り返ると少し離れた場所で宍戸が手を振っていた。
「長太郎、お前の手袋あったかいぜ」
宍戸はそれだけ言うと、鳳の返事も待たずに走っていった。
それから数日後、宍戸は手袋のお礼のかわりに自分が使っていた手袋をクリスマスプレゼントとしてあげたらしい。
2002.12.26
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